読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

安心の担保としての記号

降臨

ずっと「誰かと会話してる風の独り言」を言っている男の人がいました。

かなり大きめのスクランブル交差点の歩行者信号が赤になっていまして、人がゴミのように寄り集まってるところに立ってたんです、俺が。

そしたらすぐ隣の、若干ヲタ風味をたくわえた30歳前後の男性が急に大きな声で「誰かと会話してる風の独り言」を話し始めまして。

「ああ、そうそう。うん、それでいい。いや全然大丈夫」とかって。

おまえ全然大丈夫じゃねえだろおいって話じゃないですか。俺はぎょっとしまして、その男性の方をまじまじと見たんです。そしたらなんのこたあない。ハンズフリーの携帯でしゃべってるだけだったんですね。小さいイヤホンが俺とは逆側の耳に差し込んであって、胸のあたりにこれまた小さいピンマイク的なものがついてて、じーっと見ないと携帯電話だとは気付かないわけです。

つーか、車運転してるわけでもないのに街中でハンズフリー携帯とか使うなや、っていうね。そのフリーになった手を何に使うというのか人類は、っていうね。まぎらわしすぎ。どう見てもあぶない人です。

で、思ったのだけど、もしかしたらその人はイヤホンとピンマイク的なものをくっつけているだけで、実は携帯電話なんてものは全く持ってなくて、やっぱり口の中に住んでるトニーと脳内会話をしていただけなんじゃないかと。もうその道のプロですわ。周りの人間に一瞬「あ、この人あぶない」って思わせるだけ思わせて、よーく見たらハンズフリー携帯風で「ああ、携帯で話してたのか。安心安心」みたいな。

そんなことを考え始めたらキリがなくて、街中歩いてると携帯で話してる人、たっくさんいますけど、あいつらの7割くらいは実際には全然通話とかしてなくて、「誰かと会話してる風の独り言」を、周囲に不安感を与えないようにスマートにおこなってるだけなんじゃないかとか。気配りのできるスマートなあぶない人っていう新ジャンル。

そんで話変わりますけども、俺自身が信号待ちで立ってるときに、着信のバイブがぶんぶん伝わってきまして、こそっと出たんです。「ああ、俺俺」的に。そしたらやっぱり隣に立ってる人、めちゃめちゃぎょっとして俺の方見ましたもんね。「何? あぶない人?」みたいな感じで。そしたらなんかもう「いや、違うんですよ!」とかいう顔してしまいますものねこっちも。玉山鉄二さんばりに。玉山鉄二さんがいっつもP&Gのボールドっつー洗剤の、驚きのやわらかさとふんわりした香りに気を取られて何か失敗を犯して、「何やってんだ!」って怒鳴られて、そんで「いや、違うんですよ」とか言ってるけど、何も違ってないですからねアレ。CM見るたんびに「ちがくねえからそれ」ってつっこんでますからね、俺クラスになると。

最終的に何が言いたいかというと、攻殻機動隊みたいな時代が来て、みんな携帯電話を脳内チップに埋め込んだら、もう誰があぶなくて誰があぶなくないのか誰にもわからなくなって困るので、あの、アロハ〜〜みたいな、親指と小指だけ立てる手のしぐさを、必要ないのにみんな耳にあてるフリをするんじゃないかなって。すげえバカ絵。